神奈川県総合リハビリテーションセンター

障害者支援施設 七沢自立支援ホーム

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利用者の体験談

「あっ、風が見えるよ」

落合 三千男

私は、平成18年8月から平成20年7月迄の2年間ライトホームでお世話になりました。振り返ると、この2年間は光空間を移動していたように過ぎ去りました。でも、体内にエネルギーを注入してもらい、再びテイクオフすることができ、今は社会復帰という路線を航行しております。
 思い返すと十数年前、医師から網膜色素変成症なる意味不明の病名を告げられ、「将来、視覚障害者となってしまう公算が高い、徐々に視力低下、視野狭窄が進み暗い場所が見えづらくなります」と言われました。
 そんな馬鹿な! 今見えているじゃないか! 「先生、直りますよね?」「手術すれば大丈夫でしょ?」と、矢継ぎ早に質問しましたが、「治療法、投薬はない。現代医学では直せない難病です。」と死刑宣告を受けました。
 その日はどのように帰宅したのか覚えていません。常に不安を背負い、日々を過ごしました。誤診であって欲しい、今日も見える大丈夫と自分に言い聞かせて。
 しかし、運命という巨大な乗り物を軌道修正することは出来ませんでした。あざ笑うかのように医師の予想が当たり、五年程前から病状が進行し、3年前ついにその時が訪れました。従事すること全てに支障をきたしました。人生、ジ・エンド? 家族、仕事はどうなる? ロスタイムはないのか? 神も仏もいないのか!
 覚悟を決め、社長室へ向かいました。「別の部署を用意してある。半年休職し、技術を得て来い。」との有り難い言葉をもらいました。まだロスタイムが残っていたようです。
 それからライトホームに半年間お世話になることになりました。逆に長い期間でなく、半年勝負。この方が自分の性に合っていました。通所にて週3日、訓練スケジュールを組んでもらいました。
 パソコンは、キーボード操作から教わりました。これをマスターせねば会社に戻れない、と自分にプレッシャーをかけました。家に居ても何処に居ても暇さえあればテーブルの上で50音から始まりアルファベットを反復練習し、位置を頭、指に覚えさせました。テレビから聞こえる短い単語を即座に打つ練習もやったなあ。
 歩行訓練は戸惑いました。白杖を持つことに対し計り知れない程抵抗があったので。しかし、身を守るにはどうする? 何度も危ない思いをしたじゃないか。道路標識にぶつかったり、側溝に落ちたり、揚句の果てホームから落ちてしまったり。自問自答し、白杖を受入れました。厳しい訓練指導をお願いしました。とにかく、早く白杖が体の一部になるよう歩行を重ねました。その甲斐があって、白杖は危険を教えてくれるし、路面状況も伝えてくれるようになりました。おかげで、歩くことに余裕が出来たのでしょう。今は、足の裏で情報を得られるのです。指導して頂いた職員さんに感謝。
 感覚訓練は、目以外使える感覚全て生き返らせてもらいました。特に指先の訓練、役に立ったなあ。又サウンドテーブルテニスは、封印されていた運動神経を眠りから覚ましてくれました。楽しんでやっていたのが、最後は真剣になっちゃいました。
 日常訓練は、独自の慣習がいかに無駄か、目からウロコ状態の学習でした。教わったことのほとんど毎日の生活にて活用させてもらっています。音声腕時計の存在、紙幣の識別、置いてある飲み物の取り方等本当に役立っています。
 あっという間に半年が過ぎました。今少し、やり残した部分を完成させたくなり、復職した後、月2日程度通わせてもらい、パソコン(エクセル)及び点字を習いました。
 点字は、習い始め、指先からの信号が思考回路に拒否され続け苦労しました。でも今は簡単な読み書きが出来るようになり、メモしたものを貼り付けることが可能となり、家中に貼っています。本当に重宝しています。
 職場復帰後、お蔭様でパソコンをある程度自在に駆使出来るようになり、仕事だけでなく、情報取得範囲も広がり幸せを実感しております。
 私にとってライトホームの存在は、社会復帰を援助してくれた施設というだけでなく、紛れも無く「第二の人生に飛び出せ」と背中を押してくれた場所でした。職員さんも皆根気良く指導してくれ(優しすぎるかな?)感謝しています。出会った人とも自分達でしか理解出来ない話題で共感し合えたことも貴重でした。
 毎日相棒(白杖)と出掛けています。聞こえる音や音の方向、体感温度、臭いで分かる情報、路面の形状、そして風が見えるようになりました。視覚以外の感覚を全て駆使する、これらの感覚を日々鍛錬すれば、視覚から得ている情報量80%に近づけるかも?
 私のモットーは、元気・やる気・勇気です。三つの気(木)が集まれば森が出来ます。ひとつでも欠けてしまうと物事が決して上手く運ばないのです。だから、先ず元気を出すことから始めるのです。
 そろそろ隣で寝ている相棒を起こし、風を見に行って来ます。

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