神奈川県総合リハビリテーションセンター

障害者支援施設 七沢自立支援ホーム

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利用者の体験談

「きらきら光る」

石田 奈央子(平成19~20年入所)

今、退所を迎えるに当たって、まもなく来るであろう春を思いながら、まだ寒い北風の中、背すじを伸ばして青空に向かってまっすぐに立ち、この3ヶ月間の様々な出来事について思いをめぐらせている。
 私はライトホームに、主に調理とパソコンのスキルアップを図ることを目的に入所して来た。3ヶ月という短い間ではあったが、この他にも多くの有意義なプログラムを準備していただき、視覚障害者としてしっかりと社会で生きていくための多くの知識・技術を身に付けることが出来た。
 日常生活訓練では、調理や裁縫、編み物など、視覚障害者であると共に、一人の女性として安全で確実に家事をこなし、家庭を守りながら生きていくための貴重な技術や手順などをじっくりと教えていただいた。
 パソコン訓練では、メールやインターネットだけを扱っていてはなかなか上達することが出来ないエクセルの表計算やホームページの作成方法をはじめ、パソコンをより上手で便利に使っていくための裏技のような細かい知識をいろいろと身につけることが出来た。
 私はアイメイト(盲導犬)を伴って3ヶ月の入所生活を送っていたため、入所した当初は歩行の訓練などもはや必要ではないのではないかと思っていたところもあったが、足の裏や周囲の人の動き、それに伴う空気の感じなど普段ついつい忘れてしまいがちな大切な感覚も一緒に使いながら歩くという、視覚障害者としては基本的な部分を改めて教えていただいた。
 しかし、この3ヶ月間で私がライトホームの訓練から得たものの中で最も大きな意味を持ち、心の中で強い光を放っているものは、そうした「形のある技術」ではない。
 視覚障害を持っているということは、どのようなことなのだろうか。
 人間が生きていく上で視覚から得ている情報はおよそ70%以上とも言われている。しかし、私たちはその多くの情報が得られないのである。
 ともすれば、もう自分はだめなのではないか、何も出来ないのではないか、障害のない人には永遠に敵わないのではないかと、何かにぶつかる度、少し落ち込みそうになったりもする。
 しかし、あえてぎゅっと顔を上げてみる。
 温かくおいしいお料理をいくつも作れるようになった私。パソコンを使って多くの情報を得ることが出来るようになった私。そして、冷たい風を全身に受けてはいるけれど、もうすぐ訪れる春を予感しながら、風の香り、木々の音などをいっぱいに感じ、ハーネスをぎゅっと握って歩き出した、3ヶ月前とは全く違う私。
 入所前には少し自信がなく、小さく体を丸めながら歩いていた、ちょっとだめな自分を改めて振り返り、深く味わい、受け入れ、そして強く抱きしめる。
 頑張って少しでも前に進もうとする自分の姿が、とてもいとおしく思えてくる。体から、心から、きらきら光る何かが、次々にあふれ出してくる。
 障害者であることは確かにしんどいこともある。しかし、だからといって障害のない人に追いつこう、敵おうとすることだけが生き方ではないはずである。ここでの3ヶ月間の訓練は、ともすればそのような切ない錯覚をしそうになる私に、温かく静かな警告を鳴らしてくれたものであった。心から、深く感謝している。
 職員さんたち一人一人のやさしい気持ちと、「なんとかしてあげたい」と願ってくださる熱い思いもまた、私の心の中できらきら光っている。
 間もなく立春を迎える。今年の春は暖かいだろうか。春の青空と太陽に映える薄いピンクの小さな花のように凛とした強さを持ちながら、北風を一つ一つ南風に変えて、これからまっすぐに生きていけそうである。

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