神奈川県総合リハビリテーションセンター

障害者支援施設 七沢自立支援ホーム

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利用者の体験談

「パソコンを使いながら思うこと」

出口 雅弘

私は現在三十五歳、視覚障害者(全盲)です。自宅近くの作業所で点字印刷をやっています。
 私がパソコンを入手したのは十年ほど前です。視覚障害者でパソコンを購入した人の多くが、墨字(「点字」に対して一般に用いられている文字のこと)を書く音声ワープロとして使うことを目的にされているようです(今は音声読書機として買う人も増えているそうです)が、私の場合は違っていました。
 確かに音声ワープロソフトも購入しましたが、私が使いたかったのは、その頃発売された点字を扱うソフトでした。墨字を書きたいという気持ちもなかった訳ではありませんが、高価な機器を揃えても文章を書くことなどそんなにないだろうと思っていましたし、かなだけの点字の世界で育った自分が、ちゃんとした墨字文章を書けるはずがないと思っていました。また、なぜ視覚障害者が苦労して墨字を書かなければいけないのかという気持ちもありました。(今は、「点字の世界」に閉じ込められてはいけないと思っていますが…)
 パソコンを買った当初は、手元の点字資料をデータ化(フロッピーに入れること)する作業をしばらくしたと思います。ところがこれも一文字一文字入力していくわけで楽しい作業とは言えず次第に飽きてきました。そんなことをしているうちに、今度は音声化ソフトで使えるデータベースソフトが出たということで購入しました。住所録や本の目録などを作った記憶があります。ところがこれも年賀状の宛名書きに一度使ったぐらいで、実際にはデータを入力しただけとなってしまいました。何か有効な使い道はないかと考えた結果、パソコン通信を始めることにしました。パソコン通信を始めてみると膨大な情報があふれているのに驚きました。パソコンを使っているといろいろなトラブルが起きるので、その頃一緒に住んでいた弟に聞いていたのですが、通信を初めてからは、会議室に質問を書き込むと翌日には的確な対処法が書き込まれているという状況に感動しました。一番すばらしいと思ったのは、フリーウエアと言われる無償で配布されているソフトが多数登録されていることでした。この種のソフトの中には、市販されているものに引けを取らないものも多く、また、要望を直接作者に伝えて機能アップしてもらうこともあり、私も多くのソフトを利用させて頂いています。
 パソコン通信を始めてからは、家にいるほとんどの時間は入手した情報を読む時間になりました(中毒かも)。それまではテレビ・ラジオと数誌の点字雑誌以外は、点訳や朗読と言ったワンクッションおいた情報だったのですが、パソコン通信は私の情報入手手段に大きな変化を与えたと思います。
 その後パソコン通信以外では、電子化された墨字データを点字データに変換するもの、一昨年には紙に印刷された文字を読み上げるソフト(印刷条件やレイアウトなどにより、読み上げ精度にはばらつきがある)など、視覚障害者の読書環境を向上させるものが次々発売されています。
 このようにコンピュータ技術は、確実に障害者の可能性を広げる方向に発展しているように見えます。ところが気を付けていないと歓迎すべき方向にいつも進むとは限りません。視覚障害者の立場で言うと、時代は「画像」を中心としたシステムが増える傾向にあります。今まで使えた電化製品が、操作状況を液晶表示でしか確認できなくなれば私達には使えなくなってしまいます。そんな流れの中、JR東日本はタッチパネル式券売機の導入を発表しました。それをめぐってパソコン通信のある会議室で問題提起がされ、行動が開始されました。 私も途中から読み始めたので詳しくはわかりませんが、会議室で要望をまとめ代表者が開発者と直接話し合い、その結果を会議室にフィードバックするという形で進められたようです。その結果、昨年導入された券売機は、乗り継ぎ切符が買えない、料金がわからなければ切符が買えないなど問題はあるものの、数字キーと音声ガイドを付加して視覚障害者にも使えるものとなりました。
 このような事例を見ていると、いろいろと制約の多い障害者こそパソコンを大いに利用すべきだと思います。入出力装置の改良、購入への助成制度の充実、操作法の指導者の確保など、解決すべき問題はたくさんあるとは思いますが…
 そんなことを考えている今日この頃です。

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