神奈川県総合リハビリテーションセンター

障害者支援施設 七沢自立支援ホーム

障害者支援施設 七沢自立支援ホーム

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ロービジョン

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利用者の体験談

「胡桃と銀杏」

仲西 千晶

10月23日七沢自立支援ホームを退所。

池で孫と遊び、オギノパンで昼食。墓参を済ませて、わが家にたどりついたのは、15時ごろでしたでしょうか。

翌日日曜日、教会に出かけようとして、七沢では2階のフロアから一歩でも出る時の携行三種の神器である、スマホ、帽子、白杖を手にしました。でも一瞬躊躇いました。道路を白杖で歩くのは初めて。他人の眼が気になるのです。白杖の持つ意味がさっと蘇えりました。七沢でいる間に白杖はすでに私の一部となっていました。こうなれば。路上で出会う人の、反応を楽しめる心境です。

私は視覚障害2級のロービジョンです。解放性隅角緑内障です。

私が七沢自立支援ホームを知ったのは2年前入所して訓練を受けた友によるものでした。問い合わせにコロナ禍中でも訓練を実施していることを知りました。

80歳ではコロナ終息を待つ余裕は残されていません。独居でQOLを維持して生活したい。その願いで入所しました。

訓練で私が強く希望したのは、PCの習得でした。

訓練期間が半分以上過ぎたころ、MicrosoftWindowsのソフトやPCトーカーソフト、音声メールソフトのインストールを夕方遅くまで、矢部さんと内野さんが2時間かけて行ってくださいました。

キーボード操作をすると、今まで扱えなかった自分のPCから音声がきこえたときの嬉しさといったら、飛び上がりたいほど。と同時に感謝の気持ちでいっぱいでした。私のPCになったのですから。

その喜びは長くは続きませんでした。訓練が同室の方と同時にパソコンにスイッチを入れてもPC室のPCに比べると、立ち上がりの時間があまりに遅かったからです。夫の遺品であるPCは購入してから1年半、高級な代物だそうです。

1テラバイトもあり、いろんな操作ができるソフトが搭載されているため(個人用PCは特に)、PCトーカーを組み込んだため、非常に重くなってしまったのだそうです。起動するのに約5分、その時間の長いこと。待ちきれず、ウィンドウズキーを押してしまう。また押す。そのうちに画面がフリーズしてしまう。「焦らないで!」という声がとびこんでくる。

ほぼ同時期にハードとソフトを一緒に購入した方のは非常にスムーズなのです。視覚障害者向け専門販売店をいくつか紹介していただいた中から選び、購入したものでした。

ハードはキーボードのカーソルなみに使用する上下左右矢印キーが私のものより大きくて使い易いことも分かりました。たまたま、夫の遺品であるパソコンを使えるようになりたいということで、訓練所に持参しましたが、視覚障害者にとってどのようなツールが便利で使い易いかは、余程パソコンに精通している人でない限り、当事者には分かりにくいと思います。パソコンで仕事を希望するならば、コミュニケーションスタッフととことん話し合って相談に乗って頂くのをお勧めします。

私のパソコンで今できるのは、文章を書くこと。スロースローでおまけにバックスペースキーを一番多く使ってはいますが。

メールもほぼ送れるようになりました。メール学習に取り組んだときは、頭が混乱してしまいました。手順をノートに取るようにアドバイスを受けました。「書くものもっていません」に「ワードに書くのですよ」と口頭で順番に内容を言ってくださいました。ノート作りに1コマを要しても終わらない時は自習の宿題になりました。次第にこのノート作りが楽しくなってきました。ドキュメントのフォルダ数が増えてしまい、整理するようにと、これも自習宿題でした。退所した今このノートがとても役立っています。

日常生活訓練では、針や調理実習で危険を避ける工夫。生活便利グッズの紹介と購入のお手伝いは帰宅後の生活を前向きにしてくれました。

歩行や誘導歩行を通して、七沢の自然の豊かさを満喫。距離感がとれない私に、慌てず白杖を用いることを繰返し教えてくださいました。

退所後閉鎖的な生活に陥らぬような配慮等々。有難いの一言でしか言い表せません。

私自身は、こちらでの3食昼寝付きの生活は、心身の疲れを癒してくれました。回らなかった首は、痛みはのこっていますが、気が付いたら、2年ぶりに左右に動き、回るようになっていました。まるでリハビリをうけたように。また寝つきの悪さや浅いことには専門医の適切なアドバイス、処方にも恵まれました。遮光眼鏡をかけてからは、夏の強い陽射しに眩しさを殆ど覚えず歩けました。自然豊かな環境の下での早朝散歩、歩行訓練の快適なこと。この冬は斜めから飛び込んでくる太陽光を気にせず歩けるでしょう。

バランスのとれた食事で(1400Kcal)標準体重に近づき、体の動きがよくなったと感じています。13日、愛甲石田駅の階段を誘導されながらあがったからかも知れませんが、ほぼスムーズにあがれました。2月、3月ではやっとのおもいで上がっていたことを思い出します。

入所者は視覚障害者といっても一人一人背負っている不自由さは異なります。後から入所してくる方々は漏れなく元気になり、明るくなってくるのを目の前でみてきました。私もその一人です。訓練に懸命に取り組み、楽器にも挑戦、演奏して慰めてくれる方もいました。音楽の分からぬ私の心に深く響くものでした。

入所者が自ら立ち上がろうとする気力が生じてくるのを、忍耐強く支えながら待ちの姿勢を保ち続けて下さるスタッフの皆様に心から感謝します。これこそ真の自立支援といえるでしょう。

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